たまさか猫日和
いつもどおり、
「よかったよー」
以外に感想の持てない演劇を見終わり、劇場から外へ出た。

傘、傘、傘、

観に来る同級生は、年々減っている。
今日もいるのは、海星と私。それに同じ中学だが同じクラスにはなったことのない、細川さんだけだった。
細川さんは小劇団マニアなので、公演ではよく会うがプライベートではあまり親しくない。

「これから海星と飲みに行くけど、一緒に行く?」
「ううん、次は下北なんだ。もう行くわ」
「忙しいね。行ってらっしゃい」

また公演のハシゴか。
よっぽど好きなんだな。
羨ましいよ。

「群にゅう割拠の世の中で 我々がなにを見定めるべきか それを考えていかねばならなあいっ」

すごいな、猫までセリフ喋ってるよ。

私は思わずしゃがみ込むと、おいでおいでと手を出した。

「好きだなぁ」
海星が呆れたように言う。

身体つきからするとメスかな?
もう六歳か七歳くらいか。
まだ十歳ではないな。
キジトラ模様が、街の様子に合っている。

キジトラは私の方を見ずに、劇場の看板の上に飛び乗ると毛づくろいを始めた。誰かを待っている様子だ。

「それでもワタシ あなたのことが 初めて会った時から ああ!でも言えない!ああ、やだあんッッッアンッ」

なんだ、そのセリフ。
どんな演劇だ。
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