シロツメクサの優しい約束〜いつか君を迎えに行くよ〜

彼の彼女

見たかった映画のはずなのに、ストーリーが頭に入ってこなかった。なんとなく消化不良のまま映画館を出ると、私の少し前を歩いていた築山が振り向いた。

「ファミレスに行く前に、イルミを見ていこうか」

別に断る理由もなかったから、私は頷いた。

「うん、いいよ」

イルミネーションイベントは、ファミレスに向かう途中にある大きな公園で開かれていた。澄んだ空気の中、様々な色の光がきらめいている。

「綺麗だね……」

ほうっと白い息を吐いて目の前の優しい光景を眺めていると、築山の手が私の手に触れた。

「あ、ごめん」

偶然ぶつけてしまったと思ったから、私は隣の築山を見上げて謝った。

けれど次の瞬間、築山の唇が私の頬にそっと触れた。

「な、に……」

驚いてつぶやくように訊ねる私に、築山は照れたように笑った。

「ごめん。みちえちゃんがあんまり可愛くて、我慢できなくなっちゃった」

しかしそう言うと、彼はふっと真顔になって私の顔を覗き込んだ。

「さっき映画館で会ったあの人って、前に塾帰りに見かけた人?」

その問いに、私は築山に文句を言う気を削がれて黙り込んだ。

「……」

「もしかして、みちえちゃんの失恋相手?」

いつもの私なら、軽くかわして冗談に変えようとしたはずだ。だけどこの時は、築山の目があまりにも真剣に見えて、はぐらかしてはいけないような気がした。

「うん……。彼女、可愛かったな……」

「みちえちゃんの方がずっと可愛いよ」

築山の声がやけに優しく聞こえる。

途端に全身からふっと力が抜けて、それと同時に涙がぽろっとこぼれた。

「もっと早く素直になれば良かった」

隣に築山がいるというのに、後悔の言葉が口をついて出てしまう。

そんな私の手を、築山はきゅっと握ると言った。

「素直じゃないみちえちゃんも可愛くて、好きだよ」
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