シロツメクサの優しい約束〜いつか君を迎えに行くよ〜

あの約束が叶うなら

その頃のことを思い出してしまって顔を歪める私に、憲一は言う。

「な、頼む、みちえ。もう一度やり直したいんだ。浮気はもう絶対にしないから」

憲一は私の方へ一歩近づく。

「ただセックスの相手がほしかっただけなんじゃないの?」

「そんなわけないだろ」

頭の中には、あの時の憲一の声が残っている。

みちえがやらせてくれないから――。

私とセックスできないからって、他の女の人を抱くわけ?男の人のそういう生理、知らないわけじゃない。受け入れない私がいけなかったの?でもそれ以上に、あの後すぐに気づいてしまった。自分の心の中に密かにずっとあった想いに。

「私、憲一君とそういうことはできないどころか、もう気持ちもない。だから二度と付き合うことはないわ」

私たちの様子を一体何事かと興味津々な顔でちらちら眺めながら、他の学生たちが通りすぎて行く。

今さらながら私ははっとして、この場から早く立ち去りたいと思った。

「ごめんなさい。さよなら」

私は短く言って、くるりと背中を向けた。

しかし、憲一は私の腕を再び捉えると、ぐいぐいと引っ張って中庭の方へと歩いて行く。

そろそろ夕方だからか、私たち以外に人の姿はない。木陰となっているベンチの所まで行って、憲一はようやく私から手を離した。

私は教科書が入ったカバンを胸にぎゅっと抱きながら、低い声で言った。

「もう、私には構わないで。何度も言うけど、憲一君のことはもうそういう風には思えないし、はっきり言ってこういうのは迷惑なの」

憲一の顔が歪んだ。

「そう言わずにさ、試しにもう一度つき合ってみれば、気が変わるかもしれない。俺たち、あんなに仲良かったし、セックスはなかったけど、こういうことはたくさんしたじゃないか」

そう言うと、憲一はいきなり私の顔を両手で挟み込み、無理やり唇を塞いだ。
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