シロツメクサの優しい約束〜いつか君を迎えに行くよ〜
「んっ、んんっ……」

唇の間から舌を侵入させようとする憲一に抵抗して、私は彼の顔を思いっきり叩いた。

バシッと音がした。

憲一は驚いた顔で私から離れたが、すぐに私の両手首を掴んで揺さぶった。

「何すんだよ!」

憲一を逆上させてしまったーー。

がくがくと揺れる頭で思った時、近くで静かな声がした。

「その手を離して、彼女から離れてください」

突然現れた第三者に、憲一も私もはっとした。

そこにいたのは征司だった。

その場に固まる私たちに向かって、征司は少しずつ近づいてきた。

憲一は私の手をつかんだまま、征司をにらんだ。

「なんだよ、お前」

征司は背が高い。憲一を見下ろすようにして言った。

「あなたこそ、何ですか?」

「俺は彼女の元カレだ」

「元カレってことは、今は他人ってことですよね?」

「お前には関係ない」

憲一はそう言うと、私を連れてその場から離れようとした。

それを征司が止めるように、私たちの間に割って入った。

驚いたように憲一の手が緩み、その隙に逃げた私は征司の背中に隠れた。

「征司君、ありがとう……」

「待って、みちえ!」

私の名を呼びながら手を伸ばそうとした憲一の腕を、征司がつかんだ。

その途端、憲一は顔を歪めて声を上げた。

「い、いたたたっ!痛いっ!」

しかし、征司は涼しい顔で憲一に言った。

「二度と彼女に近づかないって言うなら、離しますけど」

「わ、分かった、分かったって。悪かったよ、もう二度と近づかないから、離してくれっ」

征司がぱっと手を離すと、憲一は足をもつれさせながら、私たちの前から逃げるように去って行った。

その後ろ姿に向かって、征司が声を投げかけた。

「俺のみちえちゃんには、もう近づかないでください」
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