シロツメクサの優しい約束〜いつか君を迎えに行くよ〜
笑うとえくぼができる彼の頬が目に入り、「本当に征司だ」と思ったら、気まずさを押しのけて、ようやく懐かしさがじわりとこみ上げた。

征司は柔らかい声音で言った。

「久しぶりだね。元気そうで良かった……」

子どもの頃の声なんて、記憶にはもう残っていない。久しぶりというよりも、むしろ初めて聞く征司の低い声に、私は戸惑った。

「あ、あの、征司君も、元気そうだね」

ぎこちない笑顔で言葉を返していたら、少し先で私を待っていた友達の声が飛んできた。

「みちえちゃん、もう教室に行かないと遅れちゃうよ」

「あ、ごめんね!」

それをきっかけに私は征司にぺこりと頭を下げると、急ぎ足で友達を追いかけた。

その後も、普段征司と会うことは滅多になかった。偶然廊下ですれ違ったり、全体集会やイベントの時などにちらと顔を合わせる程度だった。それでも征司は私に気づけばいつも、どこかまぶし気な目をして笑いかけてくれた。

一方の私は、いまだに気まずい気持ちを引きずっていた。そのせいで、征司のまっすぐな笑顔に素直な気持ちで応えられずにいた。そんな自分を嫌だと思ったけれど、よそよそしい態度を崩すことができず、強張った顔で軽く頭を下げては目を逸らす――そんな態度を取り続けていた。

そのうち、征司の笑顔に寂しさが混じるようになった。そしてある時から、彼は私を見てもふっと目を伏せるようになった。それまでのように、優しい顔で私を見ることがなくなっていた。

そうさせてしまったのは自分だ――。

そうと分かっているくせに、征司から笑顔を向けてもらえなくなったことを、哀しいと感じていた。彼に対して取ってしまった自分の態度を、ひどく悔やんでいた。大切な思い出を共有していたはずの大切な人を、自分から拒否してしまったことを後悔していた。子どもの時のように、思ったままを素直に口にできていればと、今さらながらに自分を責めた。

次に会った時こそは、征司が笑いかけてくれたなら、私も笑顔を返そう――。

そう心に決めて、私は心の準備をしていた。けれど、学校で征司と顔を合わせる機会はなかなかやってこなかった。
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