朝、夜、劣情。
 神楽朝葉(かぐらあさは)は、支配されたいという欲求を持つSubの心を満たすのが誰よりも上手いと有名だった。プレイをする際、朝葉が使用するのはコマンドのみで、キスやセックスといった淫らな接触は皆無と言っても過言ではないという。朝葉に好意を抱いている人にとっては物足りないと感じるかもしれないが、ただSubである自身の欲求を満たすことを目的としている人にとっては、性的な行為が介在しないプレイをしてくれる朝葉は貴重なDomだった。だからこそ、そのような接触は求めていないSubは朝葉を頼り、朝葉を信頼して身を預け、欲求を満たしてもらっている。朝葉もSubを甘やかすことで、自身の欲求を満たしている。その合意の上での行為は、どちらにも利益があった。プレイをして、どちらか一方が損をすることはない。そこに恋愛感情といったものが含蓄されていなければ。

 朝葉は人としてもDomとしても慕われていた。男女問わず人気があり、柔らかなその雰囲気や口調及び、不安を覚えるSubを優しく丁寧に満たすDomとしてのテクニックは、周りの人間やSubを酷く安心させている。朝葉に心酔してしまうSubも少なくなく、中には朝葉でなければ満たされないという依存気味のSubもいた。朝葉に好意を抱くSubに性的なプレイを要求されても、彼は決して受け入れず、また流されることもない。求められれば誰とでもプレイ自体はするが、キスを含めたそれ以上のことはしないのだ。未だ嘗て、誰もされたことがないという。極度の潔癖なのか、想っている相手がいるのか。人を惹きつける魅力はあるが、その実態は謎に包まれていた。
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