朝、夜、劣情。
 しかしながら、朝葉の指の動きが情欲を煽るようなそれであることに気づいた舞緒は、胸を高鳴らせながらも朝葉の心情を探ろうと瞳を彼の方へと向けた。朝葉はほんの少し首を傾けて、余裕のある微笑を浮かべていた。唇から指は離れなかった。寧ろ、舞緒が自分の意思で閉じた唇を割ろうとするかのように、境目に指を軽めに押し入れてくる。どうすればいいのか分からない舞緒は、唇を触る朝葉の指に喋ることを封じられているかの如く、声も出せずに固まってしまった。

「樫野くん、口、開けてくれる?」

「……」

「怖がらなくていいよ。樫野くんは気持ちよくなって満たされるだけだから。"Open(開けて)"」

 なぜそれで気持ちよくなり、満たされるのか、舞緒には理解できなかった。他人の唇を指で撫でるのも、その指を口の中に侵入させようとするのも、プレイに関係あるのかと驚愕するばかりで満足するような気はしない。だが、開けてとコマンドで指示されてしまっては、その行動自体を拒否することなどできるはずもなかった。SubはDomに従うことで気持ちよくなれるのだ。満たされるのだ。

 舞緒は朝葉に命令されるがまま、徐に唇を開いた。今にも口内に侵入しようとしていた朝葉の指が、大人しく従順な舞緒に褒美を与えるように再度唇を撫で始める。

 程なくして、その指が、躊躇なく舞緒の口内に差し込まれた。舞緒は目を見開き、身を引いてしまいそうになったが、朝葉の空いた片手が舞緒の後頭部を抑え込み、阻止されてしまう。親指が舌に触れ、弄ばれ、舞緒は小さな吐息を漏らしてしまいながら、両手で朝葉の腕を掴んだ。朝葉は変わらず、余裕綽々たる態度だった。舞緒の抵抗はあまりにも頼りなく、ほとんど意味をなしていなかった。

「これ、嫌なの? 樫野くん。それならセーフワード……、ああ、確か決める途中で、話が逸れちゃったんだったね」
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