朝、夜、劣情。
 嫌なのかと問いかけ、惚けたように小首を傾げながらも、舞緒に喋らせるつもりはないかのような矛盾した行動をとる朝葉は、舞緒の口内を指で犯し続けた。その予測できない動きに、舞緒はまんまと翻弄されてしまう。

 ついていくので精一杯である舞緒は、一度落ち着きたくて制止を求めようとしたが、朝葉の言う通り、セーフワードを取り決めずにプレイを始めてしまったがために、朝葉を言葉で止めることは不可能であることに今になって気づいた。朝葉に訊ねられた時に、さっさと決められなかった舞緒に責任があると言わざるを得ない。後悔してももう遅かった。

 でも、しかし、事前にセーフワードを決めていたところで、こんな状況では、結局されるがままになっていたのではないか。舌すら支配され、上手く動かせないこの状況では。何か言葉を発することなど容易ではなかった。無理に喋ろうとすると、喘ぐような声が隙間から漏れるばかりだ。はっきりとした言葉として伝えることができない。

「改めて、セーフワード、何にしようか。樫野くんが自由に決めていいよ。でも見た感じ、そんなもの必要なくなってる気はするけどね」

 本気で嫌だって思ってるなら、セーフワードなんか言わなくたって逃げられるはずだよ。朝葉に目を見られ、逃げられるはずだと挑発される。舞緒は朝葉の腕を掴むことはしているが、それ以上の抵抗は示していなかった。朝葉の指を噛んだり力任せに引き離したりするといった反抗や拒絶などが全くできないわけではない。その気になれば抵抗できるはずだった。相手にそれができると思わせるくらいの加減を、朝葉はしているのだ。にも拘わらず、朝葉の指を受け入れてしまうのは、舌を好き放題弄られているのに心地良さのようなものをどこかで感じてしまっているからだった。驚いてしまったのは最初だけ。次第に舞緒は、そのような気分になっていた。朝葉によって、そのような気分にさせられていた。
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