朝、夜、劣情。
 指を突っ込まれ、半開きになっている口から、零れ落ちそうになっていた唾液が遂にたらりと垂れ始めた。一度垂れると、そこが道筋となって後から後から伝い落ちてくる。朝葉は舞緒の汚らしい風貌を目の当たりにしても、顔色一つ変えなかった。攻めの姿勢も崩さなかった。他人の口内を指で犯して自身のそれを唾液塗れにしている時点で、みっともなく涎を垂らす舞緒の姿など然して気にするようなことでもないのかもしれない。落ち着き払っていて余裕な朝葉と違って、舞緒は唾液を拭うことすらままならなかった。

「全然逃げようとしないね。抵抗できるのにそれをしようとしないのは、これが気持ちいいからだよね?」

 樫野くんに快感を与えられて俺は嬉しいよ。舌の表面を指の腹でなぞりながら、朝葉は舞緒の陶然としているような表情を見て、内に秘める本音を読み取ったかのようにそう口にした。自分の快楽よりも、相手のSub、今で言えば舞緒のことだ。舞緒の快楽を、目の前の朝葉は優先しているように感じられた。コマンドなどを適度に使ってSubの気分を良くさせ、支配しつつ甘やかすことが、朝葉のDomとしての欲求のようだった。

 舞緒の髪を指で梳くように撫でていた朝葉の手が、そっと離れた。その手で朝葉は机に頬杖をつき、甲で顔を支えて舞緒に視線を寄越す。朝葉と目が合った舞緒の口からは、甘ったるい吐息のようなものが意図せず漏れていた。抑えようとするが、どうしようもなく息は濡れていくばかりだ。舞緒の吐息すら朝葉を満足させるものとなり得るのか、よく見ないと分からない程度に瞳孔を開いた朝葉は、煽られ続けて逆上せそうになっている舞緒を更に煽ってみせた。
< 13 / 43 >

この作品をシェア

pagetop