朝、夜、劣情。
 上手だと褒められ、才能があると認められ、舞緒の鼓動は大きく高鳴った。理性を取り戻すこともなく、ふわふわと夢のような多幸感に心が浸る。もっと刺激が欲しくなり、一度朝葉の指を引き抜いた舞緒は、指を二本に増やして再び口に入れた。中指を追加した。爪が擦れる範囲が増え、その分だけ快感も増していく。朝葉は嫌な顔一つせず、舞緒の好きなように指を舐めさせていた。従順な舞緒を眺める朝葉の甘やかすような視線すら、舞緒の本能を煽るものと化していた。

 気持ちよくなりたくて、褒められたくて、一心不乱に朝葉の指を食むようにして濡らし続けていると、突如として教室の扉が開け放たれた。第三者の闖入を知らせる音や気配に、舞緒は目が覚めそうになったが、いち早くその存在に気づいた朝葉がそれを許さなかった。朝葉に手で視界を覆われ、散々好きに舐めさせたことで舞緒が悦ぶ刺激がどんなものなのか熟知したのか、正気を取り戻すのを阻止するかの如く指に意思を乗せられる。軽く舌を引っ掻くようにして爪を立てられ、他人によって齎される刺激に舞緒は小さく喘いでしまった。唾液が垂れる。声を抑えられなかった。

「ねぇ、今いいところなんだけど、邪魔しないでくれない?」

「荷物、取りたかったんだろ」

「何? 無視?」

「あ、す、すみません……、失礼します……」

 複数の声がする。舞緒に語りかける時よりも僅かに低い機嫌の悪そうな朝葉の声と、彼の声を完全無視して別の誰かに話しかける抑揚のない冷めた声と、気まずさや申し訳なさ、更に言えば恐怖まで混じっているような震えた声。三人分。視界を遮られていようとも、誰の声なのかは容易に判別ができた。そのうちの一人が、朝葉の最も嫌悪する人物であることも。空気が張り詰め、重みすら感じる。それでも、舞緒は身体を熱くさせていた。熱が冷めることはなかった。
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