朝、夜、劣情。
 朝葉に出て行ってと言われた双子の兄、朔夜(さくや)の床を踏む音がした。その足は、教室を出ていない。寧ろ、舞緒と朝葉の元へ近づいているようだった。目の前が真っ暗なままの舞緒は、聴覚でしか状況を把握できず、それだけでも不自由なのに、ふわふわとした陶酔感が更に感覚を鈍らせているため、朝葉を煽って朝葉に煽られるなどしている朔夜の表情も纏うオーラも計り知ることができなかった。

「出て行ってって言ったよね? 耳まで死んでるの?」

「お前は頭が死んでるな。Subを甘やかすことで満たされるようなどこにでもいる普通のDomのお前には、樫野を十分に満足させることなんてできない」

「この状況で何言ってるの? 嫉妬してるの? お前はどんな相手とプレイしてもサブドロップに陥らせる天才だもんね。お前の欲求に応えられるSubなんかいるわけがない。Subの陶酔した顔を一生見られないなんて可哀想」

「お前は樫野との相性が明らかに悪い」

「負け犬の遠吠えにしか聞こえな……」

 朝葉の声が不自然に途切れた。それとほぼ同時に、舞緒は髪を鷲掴みにされ、口内に差し込まれている朝葉の指に喉を突かれた。無理やり根本まで押し込まれてしまったようで、思わず嘔吐きそうになる。何が起きたのか理解が追いつかなかったが、驚愕し、息を飲むような朝葉の呼吸が聞こえ、これは朝葉の意思ではないことだけは瞭然としていた。視界は覆われたままでもある。口から指を抜かれてもいない。朝葉が舞緒の髪を掴むことなどできない。
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