朝、夜、劣情。
 喉の奥が熱くなり、苦痛に心臓が早鐘を打つ。自然と涙が溢れた。しかし、舞緒は陶酔感から目が覚めることもなければ、また、パニックに陥ることもなかった。咽頭を突かれ、ただただ苦しいだけのはずなのに、その苦しさが、舞緒の中で足りなかった何かを埋めているような感覚すらあるのだ。舞緒の欲求は、歯止めが効かないほどに暴走しているかのようだった。苦痛を味わわされていること、それ自体が、快感に変わっているように思えた。これが気持ちいいなんておかしい。

「お前、何して……」

「樫野、"Cum(イけ)"」

 その瞬間、何かが脳内で弾けた。舞緒の理性が飛んだ。耳元で低く冷たく言い放たれたDomのコマンドが、焦らされていた舞緒を昇天させる。朔夜に髪を鷲掴みにされたまま、朝葉の指を喉奥まで押し込まれたまま、朝葉に視界を覆われたまま、快楽を得られる直接的な箇所に触れることもないまま、舞緒は朔夜の放ったコマンドによって頭が真っ白になった。朔夜は紛れもなく、Subを支配するDomだった。

「こんなことされて気持ちよくなれる樫野は、確実にドMだろ。このドMを、お前が自由自在に扱えるとは思えない。お前は人より少し優秀なだけで、Subに暴力的で過激なプレイを求められても酷い乱暴はできない、甘々でノーマルのDomだから」

 全身を走る享楽が過ぎ去り、余韻に浸るように脱力する舞緒を放置し、朔夜は朝葉を抑揚のない声で淡々と挑発する。朝葉は図星を食らったかのように言葉を失くし、暫しの間沈黙が広がった。朔夜に対して強気でいた朝葉だったが、朔夜の方が何枚も上手なのかもしれない。だからこそ、朝葉は双子の兄に対して劣等感のようなものを抱いているのではないか。それが嫌悪感として表れているのではないか。
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