朝、夜、劣情。
 それが、樫野舞緒(かしのまお)から見た神楽朝葉という人間だった。舞緒が偶然耳にした他人の言葉も多分に含まれているが、間違いではないのだろうと舞緒は思っている。朝葉は確かに人が良い。多数のSubとプレイをしていると聞くと、遊んでいると思われそうなものだが、それが健全なものであると皆が理解しているため、誰とプレイをしようが朝葉を軽蔑するような人は不思議といなかった。自分に対する印象を悪いものにはしないように、他人の意識をコントロールすることができるのだろうか。そこまでSubを支配できるDomが存在するのだろうか。朝葉のみならず、未だに誰ともプレイをしたことがない舞緒には想像もつかなかった。

 舞緒は支配される側のSubだった。朝葉とは同じクラスではあるが、会話をすることはほとんどない。Subとして、Domの朝葉のことは気になっているが、声をかける勇気も、プレイを誘う勇気も、舞緒にはなかった。引っ込み思案であるがために、上手くコミュニケーションをとることができない舞緒は、Subの欲求を満たすことができず、常に体調が悪かった。そろそろ誰かとプレイをしなければ倒れてしまうかもしれない。激しい頭痛に顔を歪め、胸を覆う不安に深く息を吐く舞緒は、危機感を覚えていた。

 Domにとっても、Subにとっても、定期的なプレイは、自身の体調を維持するためにも必要不可欠な行為だった。長期間欲求不満でいると、現在の舞緒のように、精神的にも肉体的にも追い詰められてしまう。それを防ぐために行うのが、DomとSubの間でのみ成立するプレイなのだ。支配したいDomと、支配されたいSub。その欲求は各々違っていた。
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