朝、夜、劣情。
「みっともない変態」

 朔夜に短く吐き捨てられ、掴まれていた髪から雑に手を離される。朔夜のコマンド通りに気持ちよくなったのに、朔夜は一言も舞緒を褒めることなくぞんざいに扱うばかりだったが、舞緒は何も反発しなかった。所謂サブドロップに陥る気配もなかった。乱暴な言動、それこそがケアに値していると言わんばかりに、朔夜に従った、従わされた舞緒の身体は満たされているのだった。みっともない変態だった。

 朔夜は急に口数が少なくなった朝葉を一瞥したが、何も声をかけることなくその場を後にした。舞緒は遠のく朔夜の背中を眺め、垣間見たアブノーマルな朔夜のプレイに唇の内側を舐めた。どの人もサブドロップに陥らせる暴力的なプレイとは、一体どのようなものなのか。先程の嘔吐きそうなほどの行為は、まだ序の口なのだろうか。朔夜とプレイをすれば、あれ以上の危険な快楽を得られるのだろうか。一瞬でも妄想をした舞緒は、自分でも知らなかった嗜好を、接点のほぼなかった朔夜に簡単に暴かれてしまったことを実感していた。そして、その事実を素直に受け入れてしまうくらいには、舞緒はふわふわと、現在進行形で恍惚としていた。

「樫野くん、俺とのプレイは気持ちよくない? 甘やかされるのは苦手?」

 朔夜に対する挑戦的な口調とは明らかに異なる朝葉のゆるゆるとした声が、朔夜の姿が見えなくなってもぼんやりと廊下を見つめていた舞緒の意識を浮上させた。聞こえた朝葉の声は、どことなく素面に思える。プレイ中のそれとは、雰囲気が違っていた。朔夜を煽って朔夜に煽られ、最終的には言葉を飲んでいたことで次第に熱が冷めてしまったのだろうか。気分が萎えてしまったのだろうか。質問内容は微妙にセンシティブだが、その響きは友人に対して取るに足らない問いを投げかけているかのようだった。
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