朝、夜、劣情。
 徐々に正気を取り戻し始めている舞緒は、緩慢な動作で朝葉に目を向けた。視線が絡み合う。朔夜よりもその表情は柔らかかった。それが朝葉の顔であり、今の彼には性的な欲求など見受けられない。気持ちよくないのか、苦手なのか。それらは朝葉が感じている舞緒への疑問だ。プレイではないだろう。恐らく、DomとSubの間でのみ成立するその行為は、もう既に終わっている。舞緒は朝葉の問いに対する応えを、恍惚から現実に帰ったような調子で口にした。

「あ……、えっと……、べ、別に、そんなことはない。身体も楽になったし、ちゃんと、気持ち、よかった……」

「恥ずかしそうだね。一気に目が覚めて冷静になっちゃった? 顔赤いよ」

 噛みつつ懸命に返答したものの、気づかれたくないことをさらりと指摘され、顔に集中する熱を意識してしまった。とんでもない醜態を朝葉に、いや、朝葉のみならず朔夜にも晒してしまった事実が弾丸の如く舞緒を貫き、あまりの羞恥に記憶を消し去りたくなった。朝葉からも、朔夜からも、その記憶を消せるものなら消してやりたくなる。

 プレイ中は気分も高まり、我を忘れてしまうほどの恍惚感に支配されるものの、それが終われば静かに、あるいは何かの衝撃を食らったかのように正気に戻る。この調子では、その度に羞恥心に苛まれてしまいそうだった。性的に気持ちよくなり、朔夜のコマンドで果ててしまった自分の姿を見られたことを思うと、どのような顔をすればいいのか分からない。舞緒は居た堪れなさに俯いてしまった。視線を下げて恥ずかしがる舞緒の耳に、朝葉の落ち着いた穏やかな声が届けられた。
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