朝、夜、劣情。
「彼奴、めちゃくちゃ暴力的で、何人もサブドロップに陥らせる悪い意味で正真正銘の天才なんだけど、プレイが行き過ぎて殺してしまうなんてことは絶対にないから。俺が保証する。大嫌いだけど、嫌でも双子だからかな、誰よりも彼奴のことは知ってるつもり」

「……さっきから、嫌いって言ったり悪く言ったりしてるけど、かぐ、あ……、朝葉くん、本当は、朔夜くんのこと」

「俺といる時に、彼奴の名前出すのやめてね?」

 神楽と言いかけて、朝葉はその呼ばれ方を良しとしないことを思い出し、咄嗟に言い直したものの、今度は朔夜という名前に引っかかってしまったらしい。舞緒の言葉に被せるようにして遮った朝葉は、圧のある微笑を浮かべた。舞緒は唇を引き結んだ。

 朝葉は双子の兄である朔夜のことを嫌っているため、その名前すら聞きたくないと思うのは分からなくもないが、それにしては少々発言に矛盾が生じている気がしなくもない。朔夜に対して劣等感を抱き、それが嫌悪感として表れているのではないかと一度は思ったものの、実際は、口で言うほど朔夜にそのような感情を抱いているわけではないのかもしれないと、舞緒は二人の関係に訂正を入れた。本人は頑ななため、わざわざそれを指摘して地雷を踏むようなことはしないが。

「とりあえず、樫野くんは彼奴の相手と、それから、俺の相手も頑張ってしてね?」

 煽るように小首を傾げる朝葉は身を乗り出して手を伸ばし、舞緒の髪を優しく梳くように撫でた。朔夜が鷲掴んだことで乱れてしまっていた箇所だった。朝葉のその丁寧な動作に、このゆるゆるとした空気感に、舞緒は強烈な眠気に襲われてしまいそうになる。朝葉の手つきは決して、卑猥なそれではないのだった。

 朝葉に撫でられながら、舞緒は自分の抱いていた欲求について思案した。朝葉の手も、朔夜の手も、恐らくどちらも、舞緒を満足させるものだ。甘やかされても、痛めつけられても、そこから快楽を見出し、快楽に繋げることができてしまう舞緒は、朝葉が言ったように、Subとしての才能があると言えた。
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