朝、夜、劣情。
 朝葉の両眼が、舞緒を捉える。舞緒が落とした言葉にイエスともノーとも言わなかったが、朝葉のそのコマンドは遠回しにイエスと言っていた。目の前にある二階建ての立派な家は、朝葉の自宅であり、朝葉の双子の兄である朔夜の自宅でもあることに間違いはないようだ。たった今、舞緒は二人が住むその自宅に連れて来られたのだ。ここは双子の住処だ。

 舞緒の心拍数が上昇していく。朝葉が舞緒をここに誘導して来たのは、朔夜とプレイをさせるため、してもらうためだろう。協力するとは、そういうことなのではないか。

 朝葉の手によって齎されたその機会に高揚し、舞緒は呼吸が浅くなる。気になっている朔夜と遂に本格的なプレイができるかもしれないのだ。二人からドMだと刻印を押され、自らもそれを認めつつある舞緒は、期待に胸が膨らんでしまった。

 一歩も足を引かないことで朝葉のコマンドに従い、さらりと髪を梳かれたことで簡単に気分が持ち上がる。何の拒否もせず素直に従う舞緒を撫でて褒めた朝葉は歩みを進め、家の玄関を開けて舞緒を招じ入れた。舞緒はやはり逃げなかった。引き返さなかった。誘われるがまま、双子のテリトリーに足を踏み入れた。

「彼奴もう帰って来てるね」

 朔夜のものと思しき靴を見て、朝葉が声を弾ませる。朔夜のことなど嫌いだと口癖のように言っているのに、今の朝葉は嫌悪どころか高揚している節があった。朝葉の企図することが何なのか、舞緒に、朔夜に、何を期待しているのか、未だ見当がつかない。興奮に高鳴る鼓動が、舞緒の思考を邪魔するのだった。

 靴を脱ぎ、家の床を踏む朝葉に倣い、舞緒も靴を脱いで神楽家の床を踏む。依然として身体は熱く、呼吸は荒く、このままでは逆上せてしまいそうだ。逸る気持ちを抑えられない。ずっと興味があった朔夜のプレイ方法を早く知りたい。体験したい。満たされたい。舞緒の欲求は一人でに膨れ上がるばかりだった。
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