朝、夜、劣情。
「樫野くん、俺はここにいるからね。彼奴とプレイして気持ちよくなってる樫野くんを間近で見たいんだ」

「え……、あ、朝葉くん……? な、何言って……」

「俺が気持ちよくさせるのもいいけど、誰かに気持ちよくさせられてるのを見るのもいいなってことに気づいたんだよね」

「……み、みる?」

「樫野くんはドMだから、見られた方が興奮するよね? 嫌じゃないよね? 俺は樫野くんが彼奴とプレイして悦くなってるところを見たいから、これは一石二鳥だよ。……ってことで、俺はここで傍観してるから。さっさとその気になってくれない?」

「お前も変わった性癖持ってるな」

「お前にだけは言われたくないね」

 この双子は、仲が悪いはずだ。お前と呼び合うくらいには、仲が悪いはずだ。でも、今、この部屋に漂っている空気は、一触即発のような険悪なそれではないように思えた。朝葉と朔夜の視線が、意識が、欲求が、舞緒の全身に絡みつき、自由な言動を妨げる。甘い蜜にまんまと騙され、飢えた猛獣を囲う檻の中に誘い込まれてしまったかのようだった。

 朝葉が出入り口の前を陣取っているため、逃げることは叶わない。朝葉が舞緒に手を出す気配もない。朝葉の言っていることは冗談でも何でもないようだ。本気で宣言通りにするつもりなのだろう。朔夜とプレイをして気持ちよくなる舞緒を見ることを。

 自分の様子を傍観する朝葉を冷静に想像して、舞緒の緊張を孕んだ興奮は不思議と増していった。第三者に見られながらするプレイを、舞緒は嫌だとは思わなかったのだ。変わった性癖を持っているのは、舞緒も同じだった。紛れもなく、舞緒はマゾヒストだった。

「大変だな、樫野。あんなサイコパスな奴に懐かれて。こんな所に連れて来られて。ここで俺とするしかないなんて。それを彼奴に望まれてるなんて」
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