朝、夜、劣情。
 教室の人口密度が減っている。しかしまだ数人は残っている。プレイは人の目がある場所でするようなことではないが、朝葉の場合は会話がほとんどであり、過度な接触はないとされているため、あまり人目を気にする必要はないのかもしれない。なにしろ、朝葉自身が全く意に介している様子がないのだ。

 朝葉はそれで良くても、舞緒は第三者がいることに落ち着かず、その流れになっていてもどこか集中できずにいた。たった一つ二つのコマンドに従うだけでは、体調不良は改善されない。頭痛は今も続いている。胸を覆う漠然とした不安も残っている。セーフワードもすぐに決められない。舞緒は完全に気が散ってしまっていた。

「集中できてないね。もしかして、人目が気になるの?」

 コマンドではない。普通の質問だ。舞緒は申し訳なさを顔に浮かべながら、ぎこちなく顎を引いた。面倒臭がられるかもしれないと身構えたが、朝葉は嫌な顔一つせずに舞緒を見て、それから、教室に残って談笑している女子数人に目を向けた。

「ねぇ、ごめん、悪いけど、ちょっとだけ席外してくれない?」

 楽しく話し込んでいた女子が会話を止め、皆が朝葉の方に顔を向けた。続けて、朝葉と向かい合って座っている舞緒をその瞳に映した女子が、何かを察したように途端に慌て始めた。一人がそうなると、それが周りにも伝播していく。ガタガタと席を立ち、まとめていた荷物を手にした女子たちは、気まずそうに肩を寄せ合って教室を後にした。

 声をかけたのが朝葉でなければ、女子は反発していたかもしれない。朝葉の言葉だからこそ、文句など言わずに指示に従ったのではないか。怖い人、というわけでもないのに、なぜか朝葉には逆らってはいけないような雰囲気が醸し出されているのだ。少なくとも、舞緒はそのように感じた。
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