朝、夜、劣情。
 会話の中で、プレイをする。自然な流れで、コマンドを出す。それが朝葉の常套手段だと言えた。強要はしない。朝葉のDomとしての欲求は、Subとの緩やかな時間で満たされるものなのであろうことが窺える。朝葉はマイルドなDomであり、Subの懐に入り込むのが上手い。緊張はしているが、朝葉に対して嫌悪感を抱くことはないために、舞緒がこの場から退きたいと思うことはなかった。まるで朝葉に調整されているかの如く、やけにゆったりと流れる時間が、そのような穏やかな空気が、舞緒をここに留めさせていた。

 舞緒の言葉を静かに待つ朝葉を見て、舞緒は自分の朝葉に対する印象を口にするために、ぐるぐると思考が回る脳内で懸命に文章を組み立てた。口下手な舞緒がいつもしていることだった。ある程度まとめてからでなければ、自分でも何を言っているのか分からなくなることがある。口が先に動いてしまうと、発言が支離滅裂になってしまうのだ。そうならないように、舞緒はしっかりと準備をしてから言葉を紡いだ。

「物腰が柔らかで、誰からも慕われていて、でも、誰の近くにもいないような、どこか遠くにいるような、近くて遠い、不思議な人。俺とは住む世界が違う人。神楽くんには、他人を惹きつける魅力があると、俺は思ってる」

 考えた回答のストックがあっという間に底を尽き、全てを言い終えた舞緒は、何がとは言わずに朝葉に期待してしまいながら唇を引き結んだ。朝葉は変わらず飄々とした様子で、しかし緩く頬を持ち上げて、舞緒に向かって手を伸ばした。舞緒は反射で肩を揺らしてしまったが、その後に与えられた、手のひらで優しく頭を撫でるというケアじみた行為に安心感を覚えた。コマンドに従ったSubを褒めることはDomの義務なのだ。
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