朝、夜、劣情。
 互いにストレスなく気持ちよくプレイをするためにも、言動には気をつけなければならない。朝葉がやる気をなくしてしまうと、舞緒のSubとしての欲求は十分に満たされなくなってしまうのだ。朝葉には舞緒の代替など探せばすぐに見つかるだろうが、現時点で舞緒が頼れるDomは目の前の朝葉しかいない。朝葉から声をかけてくれたことで自然と始まったプレイを、最早中途半端なところで終わらせるつもりはなかった。コマンドに従い褒められることで満たされ、同時に、体調の方も確実に落ち着き始めているのを実感しているからだった。

「呼ばないように、気をつける、から、プレイは、やめないでほしい」

「何言ってるの。やめないよ。ね、だから、早速俺の名前呼んでみて」

「名前……」

「うん、名前だよ。"Call(呼んで)"」

「あ、さは、くん……」

「もう一回、ちゃんと呼んで」

「……朝葉くん」

「"Good(良い子)"」

 緩めに口角を持ち上げた朝葉が初めてストレートに口にした褒め言葉に、舞緒の胸は熱くなった。無意識のうちに、頬に触れている朝葉の手に擦り寄るようにして甘えてしまえば、その手の親指で唇を撫でられる。驚いてしまった舞緒は半開きになっていた唇を咄嗟に閉じた。それだけで、朝葉の手を弾こうとはしなかった。

 唇を触ることは、過度な接触にはならないのだろうか。これまでに相手をしてきたSubにも、同じことをしているのだろうか。きっと、しているのだろう。自分だけではないはずだと舞緒は考えを改めた。過度になる基準など人それぞれだ。朝葉にとって、これは何も過度ではないのだ。
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