今を生きる君とこれからも
八章・君と
朝日晴。私は朝日晴が好き。大好きだ。私は今、高2だが分かるものはわかる。大人が言う、愛だとか恋だとか。でも、最初から分かっていたわけじゃない。あの時、彼に出会えたから。
どんなにつらい思い出でも、私は一切後悔なんかしてない。だって、あれは二人で導き出した最高の答えだから。



私は晴と、帰ろうと電車に乗っていた。まださっきまで雨が降っていて、蒸し暑い、でも、夏ってそういうものなのかもしれない。そういうものだからあっという間に過ぎて行ってしまう。
昨日はお父さんと口論をした末、夜が明けるまで私と海で遊んでいたため晴は一切寝ていない。私は、晴を待っている間ずっと寝ていたので今でも元気だが流石に彼にも限界が来てしまったらしい。晴は私の肩に顔をのせて静かに寝ている。
でも、いつか寝ているまんまもう一生目を覚まさない日が来るかもしれない。そんな日が来るのが怖い。そんな日は、一生来ないでほしい。

あの日、晴は何かを知った。そんな顔をしていた。多分、晴はあの時、それを私に伝えようとした。でも怖かった。私は聞きたくなかった。だから無理やり話題を変えた。
もし、あの日、私が恐れずちゃんと聞いていたならどんな風になっただろうか、そんなことばかり考えてしまう。私は、晴がせっかく勇気を振り絞って言おうとしていたことを遮ってしまったのかもしれない、晴は、言うタイミングがなくなってしまったかもしれない。
だとしたら、私のせいだ。あ、また、もう、この考え方は、やめようとしてたのに、でもどうしても自分この言葉で追い込んでしまう、自分で晴が言ったのかのように問い詰めてしまう、そして、いつしか現実とかみ合わなくなってしまう。全部、私の頭の中での出来事。
本当に迷惑だな、私。

次は―平野―平野―お降りの際はお忘れ物に注意してください。

もう、着いた。思いのほか速かった。まあ、こんな田舎の電車は駅でも乗る人が少ないからその分時間がはやくなるんだろう。それとも、私が時間さえも忘れてしまうほどに深く考え過ぎていたのか。
「んー!寝た寝た。あ、まって、俺、瑠夏の肩で寝てた?」
「あ、うん。気持ちよさそうに寝てた。」
「マジか、、、、。」
やべぇ、まだ、瑠夏の服のにおいが残ってる、、、、。そんなことをつぶやきながら支度を進める晴の声を私はきこえなかったふりをする。
「もう着く?」
「うん。次。」
「はっや。」
「だよね。」
会話がうまく続かない、話題が思いつかない、どうしよう、、、。
「瑠夏、もしさ、俺が死んだらどうする?」
「え、何言ってんの?」
「え?聞こえなかった?もう一度言おうか?」
「いや、いい、でもなんでそんなこと聞くの?」
「別に、気になったから。」
「答えてもいいけど、それって今言わなくちゃいけない?」
「無理にとは言わないけど。」
「じゃあ、言わない。」
何故か、これを言ってしまったら、晴に会えなくなってしまいそうだから。
「じゃあ、俺が死んだときに備えて、俺が死んだあと瑠夏がどう生きていくか、二人で決めない?」
「二人で?」
「うん。二人で。」
「でも、なんで晴が死ぬ前提なの?」
「それは内緒。」
晴の顔にくっついているその笑顔はきっと偽物。その仮面を外した先の晴の本当の顔が見たい。私にぐらい、素直に弱みを見せてくれたっていいのに。
「分かった。決めよう。」
「でも、ひとつ約束。これは必ず私と晴の二人だけの秘密にすること。」
「いいよ。じゃあ、決まりだね。早速、明日から考え始めようか。」
「そんなに早く?」
「だっていつその答えが必要になるかわからないんだから。」
「そうだね。」
認めたくない。でも、もう、晴はきっと知っているんだよね。だからこんな事を。
もう、知りたくないことだってあるのに、なんでこういう時に私はわかっちゃんだろう。
本当に、晴はその事実を受け入れているの?私だったら絶対に受け入れられない。
でも、晴は何回もこういうことは体験してるんだよね。だったら、私とは違うのか。
やっぱわかんないや。うん。わかんない方がいい。そう、いいに決まってる。

「ふぁ~、それにしても、父さんがあんなに最低だったとは。まあ、面白いものも見れたし、いっか。」
「本当に、なに話してたのよ、、、。」
想像するだけでも、カオスな情景しか思い浮かばない、、、。
「なんか、久しぶりだったな。この病気のこと、考えるの。」
「そうなの?」
「うん。なんかもう、段々生きがいとか、そういうものが消えかけてたから。でも、久しぶりに思い出された。俺は病気だったんだな、って。」
「そ、そういう事言わないでよ。気まずいから。」
「そうだね~。ごめん、ごめん。」
「なんで、そんなに他人事なのよ。」
「なんでって、そりゃぁ、もう、気にしてないから。」
そう、晴はいつもそうやってやせ我慢する。なんで、なんでそういうことは言ってくれないの?もっと頼ってほしい、晴の助けになりたい、もっと、もっと、近い存在になりたい。
「ほら、もう降りるよ。」
「う、うん。」
そっか、私よりもう、強いんだ。晴は。昨日の時点で晴は強くなった。私になんか、かなわないくらい。はあ、そっか、そっか。よかった。



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