今を生きる君とこれからも


「着いたぁ~!」
なんだか、懐かしく思える。たった一日だけなのに。そんなことを思いながら、瑠夏にいつあのことを伝えようか、考えていた。
「なんか、懐かしいね。」
「っ!え、瑠夏ってもしかして、エスパー⁉」
「はぁ?なんでよ!」
「だって、今、俺も懐かしいなぁ~、って思ってたから。」
「そんなことで、、、。」
「そんなことってなんだよ!」
「いやぁ、くだらないなぁ~って思って。」
「くだらなくなんかない!これも瑠夏との大事な思い出!」
「っ!もう、ほんと、そういうこと急に言わないでくれる。」
瑠夏のちょっと怒ったような顔が愛おしい。こんな毎日が一生続けばいいのに。
九章・今を生きる君とこれからも

「おはよう。」
「おはよ~。」
「なんだか、眠そうだね。」
「うん、昨日あんまり寝れてなくて。」
「駄目だよ、ちゃんと寝ないと。」
「う~ん。」
「はぁ。」
「じゃあ、早速、俺が死んだあと、瑠夏がどう生きるか決めようと思いまぁ~す!」
「なんで、そんなテンション高いの?」
「だって、朝ってなんかだるいじゃん?」
「確かに。今私、今日で一番だるいかも、、、。」
「ちゃんとして~!大事な事なんだから。」
「は~い、、、。ふわぁ、、、。」
「おい、、、。」
まだ、眠そうだけど、大丈夫かな。まあ、話は始めないとか。
「えっと、まず、俺がこうやって生きていて欲しいなぁ~っていうのを言うから、まあ、瑠夏は、それになんか言ってくれれば修正するから。」
「分かった。いいよ。」
「じゃあ、まず一つ目。」
「もし、俺が死んでも自分のせいにしないでほしい。俺は瑠夏を死んでも苦しめたくない。」
「そっか。じゃあ、それには賛成。」
「よし、じゃあ、俺が紙にまとめるから、最後に渡すね。」
「うん。じゃあ、次!」
「オッケー、じゃあ、二つ目。」
「瑠夏を幸せにしてくれる人に出会ってほしい。」
「え。」
「これは、ただ、瑠夏が俺のことをいつまでも引きずってほしくないからなんだけど、いいかな?」
「嫌だ。」
「え?なんで?」
「私は、晴以外に好きな人は作らない。」
「でも。」
「分かってる。いつまでも引きずってなんかないから。」
「時は残酷。いつしか人は忘れるもの。」
「なんか、瑠夏にそういわれちゃうと説得力があるな。反論できないや。」
「じゃあ、これで決まりね。まだあるの?」
「うん、これが一番大切な事。今、ちょっと言われちゃって、言いにくいけど。」
「俺のこと、このことを、忘れないでほしい。」
「俺のことずっと好きでいてほしい。」
「最後に、俺、ずっと瑠夏のこと、好きでいていい?」
「っう、バカっ、なんでそういうことをもっと早く言わないのよっ!私、さっき、めっちゃ嫌なこと言っちゃったじゃん!」
「それで?」彼女は俯いてつぶやいた。
「そんなの、いいに決まってるじゃん。」
良かった。良かった、良かった、良かった。もし、もし、瑠夏に嫌だと言われたらどうしようと思っていたが、でも、本当に嬉しい。ありがとう。本当に。
「以上です。なにか瑠夏からも提案はないの?」
「うーん、特にないかな。なんか、晴の遺言みたいだね。」
「あ~、確かに。じゃあ、最後に遺言状として渡すね。」
「ふふ、うん。わかった。」
柔らかに笑った彼女の笑顔は今にも消えてしまいそうで、どこか儚かった。


「じゃあね~。また今度!」
「あ!今度、どっか行こうね!」
「うん。じゃあまたね。」
大きく手を振る瑠夏に向かって俺も手を振りかえした。


家に戻ると静まり返ったリビングはより俺を寂しくさせた。やっぱ、一人は寂しいな。
冷蔵庫から炭酸ジュースとお菓子を取り出すと、テレビをつけ、なんとか一人になることを避ける。テレビはいつも誰かがいる。テレビをつければ一人になることなんてない。
お笑いなどを見て笑えば一瞬だとしても、嫌なことを考えなくて済む。なんて、ぼっちの考え方なんだろう。

しばらくテレビを見ていたが特に面白いものもやっていないので自分の部屋で小説でも読むことにした。小説はテレビと違って、声は聞こえないが、自分の想像で人物が動く。
それが面白い。つい読み始めてしまうと、なかなか止まらい。
そんなことをしていたらもう九時を過ぎようとしていた。今日はあまりお腹もへっていないから、お風呂に入って、そのまま寝るか。まあ、なんともつまらない日常だ。
また、すべてのやる事を済ましてしまってやることがなくなった。これだから俺は。
もう、残された時間だって少ないのに、何やってんだよ、俺。
あ、そういえば前、瑠夏に言われたけど、第一人称「俺」にわってるは、なんでだろう。
あー、時間の無駄。瑠夏、暇かな?会いたい。会いたい。会いたい。

ピポンッ
あ、着信だ。瑠夏。
「今、何してる?暇?」
会いたい、会いたい、会いたい、会いたい。
「会いたい。」
ピポンッ
「いいよ。」
「晴の家、行くね。」
会える、会える、会える。もう、俺は一人なんかじゃない。


ピーンポーン
来た!俺は勢いよくドアを開けると、驚いた表情の瑠夏がいた。
「どうしたの?そんなに急いで。落ち着きないなぁ~。」
「あ、ごめん。」
「で?なに急に、晴の方から会いたいなんて珍しいじゃん。」
「え、そう?」
「うん。」
「それで?」
「あ、あのさ、前、言えなかったこと、話してもいい?」
一気に彼女の顔から笑顔が消えた。
「そ、それって、いま、言わなくちゃいけない?」
「うん。出来ればそうしたいかな。」
「そ、そっか。」
「それで、瑠夏も薄々きずいていたかもしれないけど、今、正直に言って、
俺の病状は良いとは言えない。」
「そ、それって。」
「あぁ。」
「そう、俺は、もうすぐ死ぬ。」
「今からいう事は、もう何も反応しなくていいからね。大変でしょ?」
「わ、分かった。」
「気が付いたのは、今年の6月ぐらいだったかな。なんとなく、いつもと違うなぁ~とは思ってたんだけど、それから、家にいる時、たびたび吐き気とか、めまいとかがするようになってさ、あぁ、もう、これは駄目だ。って思ったよ。やっと瑠夏に会えたのに、せっかく、瑠夏の傷も癒えてきたのに、って。また俺がその傷口を開かせてしまうって。でも、実際、瑠夏はそんなに俺のことを好きでもないんじゃないかって思ってた。でも違った。
瑠夏は俺のことを見ていてくれた。傍にいてくれるって言った。だから。だから言えなかったんだ。瑠夏を傷つけたくなくて、自分のことよりも瑠夏の事の方が心配で。もう、自分の事なんかどうにでもなれって感じで、もう、そのくらい、好きだった。大好きだった。
もう、離れたくない、別れたくない、一生、傍にいてほしい。重いかもしれないけど、俺はそのくらい、瑠夏の事が好きだ。愛してる。もう、言葉に出来ないくらい、大好きだから。」

俺が瑠夏の瞳を真っすぐ見ると、そこからは大粒の涙が溢れていた。
ありがとう。
「俺は、もう、そんなに長くない。だから、もう、近いうちに入院生活に戻る。そしたら、毎日とは言わないけど、お見舞いに来てほしいな。」
「行くっ!絶対行くっ!毎日行くからっ!」
「そっかぁ、嬉しいなぁ。」
「だから、だから。最後まで諦めないで。」
「諦めないよ。なにがあっても。」
「だから、最後のお願い。俺の最後の時に、一番近くに居て。」
一瞬、瑠夏の顔に笑顔が戻ったような気がした。
「うん!絶対居るから、安心して!」
赤い瞳からは、まだ、涙は出続けているが、その顔は笑顔だった。
俺は、この、この瑠夏の笑顔が大好きだ。あの時に最後に見せてくれた笑顔。
今でも、俺の脳内にはしっかりと焼き付いている。忘れられない。一生。
死んでも。
いつしか、自分の顔からも水が滴り始めていた。あぁ、泣くなんて、久しぶりだなぁ。
あの女の子に会ってから、病室に戻ってから、一生分、泣いたんだけどな、可笑しいな、
とまらない、涙が。俺、死ぬのが、怖いのか。そっか、そうだよな、これが普通だ。
「瑠夏、ごめん、今日はもう、帰ってもらっていいかな。」
「うん、私も、こんなに泣いちゃってごめん。」
「ごめん、送れなくて。」
「いいよ、私は、晴の体の方が心配。」
「そっか、ありがとう。」
「うん。じゃあね。」
「じゃあね。」
いつものように、テレビをつけ、ご飯を食べていると、急に視界が暗くなった。
めまい?それとも、俺は。
ガタッ

そこからの記憶は思い出せない。
だが、突如に俺の脳内には一つの言葉が浮き上がってきた。
―死―














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