今を生きる君とこれからも


目覚めたのは、子供の時から見慣れた病室の一画だった。
やっぱり、あの日、俺は倒れたのか。ということはもう、長くない。
瑠夏は、もう知っているだろうか。あ、スマホ。
「そりゃあ、無いか。」
ガラッ
「晴?」
「あ、瑠夏、知ってたか。スマホが無いから、どうやって伝えようか、考えてたとこだったんだ。」
「晴、晴だよね。」
「そうだけど、どうした?」
「よかった、よかった、、、。」
瑠夏はその場で崩れ落ちると、声をあげながら泣き始めた。
一体、どういうことだ。
「朝日さんっ!」
「え?」
「お目覚めになられたんですね!きっと、毎日彼女さんがお見舞いに来てくれたおかげです!朝日さん、どこか、痛いところや、苦しいところはありませんか?」
「あ、特にはないです。」
「で、その、どういうことですか?」
「あ、朝日さんは、八月九日に、自宅で倒れているのが見つかって、それから意識がもどらなくて、一か月間、ずっと、眠ったままだったんですよ。それからは、彼女さんが、毎日お見舞いに来てくれて、そのおかげですね。」
「瑠夏が。毎日。」
「そうでですよ。」
「瑠夏、いつまでもそこで泣いてないでこっち来てよ。」
「う、うん。」
「すいません。ちょっと、席外してもらってもいいですか?」
「あ、すきません。お邪魔でしたね。」
「いえ。ありがとうございます。」
まだ泣いているのか、なかなか顔を見せようとしない。
「瑠夏。」
「俺、正直、死んだのかと思った。」
「諦めないでって、言ったじゃん。」
「だって、想像以上に怖かった。真っ暗で、なにも動けない。まるで、誰かに縛り付けられたようだった。」
「そうなんだ。嫌だね。」
「でもさ、もう、俺はここからカウントダウンは、始まってるんだよ。」
「あと何日かな。」
「そういうこと、言わないで。」
「ごめんってば。」
でも、これは事実だ。
「私、今日はもう、帰えんないと。この後、用事があって。」
「分かった。バイバイ。」
「じゃあね。」


サァァァァァァァァァァァ
細かい雨の音か病室に響き渡る。八月って、こんなに雨、多かったっけ。
あ、もう八月じゃないんだった。九月か。なんかバグるな。体内時計が狂う。
「っうぅ!」
急に腹に激痛が走った。苦しい。また、俺の脳内に出てきやがった。
―死―
もう、近い。もしかしたら、今月も、生きれるかわからない。
……誰か。
「朝日さん⁉大丈夫ですか!今、担当医を呼びますから!」
「っく、、、。」
苦しい、痛い、辛い、もう、嫌だ。
―死―
何度も脳内で繰り返される。そのたび、死への恐怖が大きくなっていく。
その瞬間、意識が途切れた。


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