今を生きる君とこれからも

晴、目覚めて、よかった。今日は、お爺さんのお通夜があるから行けないけど、明日は、一日一緒に居てあげよう。

はぁー、本当に疲れた。なんであんなにお通夜って長いのかな。何度、寝そうになったことか。
プルルルルルルルルルルルルルルル
あ、あの看護師さんからだ。何だろう。
「はい。空野です。」
「あ、あの、朝日さんの彼女さんですよね。」
「あ、はい。そうですけど。どうかされましたか?」
「あの、、、。」
「率直に言わせてもらいますと、朝日さんは今、とても危険な状態でして、長くても明日が最後かと、、、。」
「そうですか。今からって、行っても大丈夫ですか?」
「は、はい。」
「では、向かわせてもらいます。」
「分かりました。」
「では。」
プツッ
とても危険な状態、明日、明日が最後。
晴は、明日、死ぬ。
―嘘だ―
そんなわけ、そんなわけ、あるはずがない。だって、さっきまで起きていた。話していた。なのに、なのに。
『え、急に言われても、な、なんで?千穂ちゃん、昨日まで一緒に遊んでたじゃん!』
忘れようとしていた言葉たちが蘇っていく。
「千穂、ちゃ、ん。」
突如と混みあがってくる自分への怒り。憎しみ、後悔。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
雨が降っている中、傘もささずに外に飛び出た。水たまりを勢いよく蹴り、服は全て濡れた。
しかも、周りが暗く、見通しもよくない
プゥゥゥゥゥゥゥゥー‼
「はっ、く、るま、、、。」
気ずいてなかった。
「おい!危ないだろ!」
「す、すいません。」
「なんだ嬢ちゃん、こんな雨の中、傘もささずに。」
「あ、あの、急いでるんで。」
「そんだったら、乗ってけ。送ってやるから。」
「い、いいんですか?」
「おう。早く乗れよ。」
「ありがとうございます。」
「で、どこに行くんだい?」
「あ、横山病院ってところです。」
「分かった。とばすから、ちゃんと掴まってろよ。」
「は、はい。」

そういった瞬間、車は急発進した。
しばらくして、車の揺れにも慣れてきた。外を眺めると空には無数の星と寂しく一人でたたずんでいる満月があった。私はなぜか、たくさんの星に囲まれている月を寂しそうだと思った。なぜなら、星たちは小さな光でもたくさん集まって光を何光年という年月をえて、今、この光が届いている。それに比べて、この大きな月は、たった一人で今もこの地球の人々に夜というものを伝えてづけている。大事な責務を任せられ、毎日光続けている。私は、そこのなにかが寂しいと思ったのだ。
「嬢ちゃん。着いたぞ。」
「ありがとうございました!」
私は勢いよくドアを閉めると、おじさんに一礼をした。そして、私は病棟に向かって走っていく。



「あ、朝日さんの彼女さん?」
「はい。そうです。」
「じゃあ、案内するわね。」
「はい。」
「今、朝日さんは集中治療室から出てきたばかりだから、まだ面会ができる状態じゃなくて、せっかく来てもらったのにね、ちょっと待っててね。あと、薬の副作用でしばらくは、目を覚まさないとは思うんだけど、もしかしたら、目を覚ましてくれるかもね。」
看護師さんは優しく、笑みをかけてきた。
「そうならいいんですけど。」
「きっと大丈夫よ。明日までに、一度は目を覚ますと思うから。」
「祈っときます。」
「そうね。じゃあ、待っている間、ちょっと私の話、してもいいかしら。」
「はい。」
「あのね、私にもあなたたちと同じ歳の娘がいるの。その子はね、人の感情を異常に読み取ってしまう子で、私の考えていることなんかも、ちょっと話しただけで、知られちゃう。」
私にもいる。知佳は、いつも私の考えていることを言い当てて、相談に乗ってくれる。
「私の友達にもそういう人がいるんです。」
「あら、そうなの?なんていう子?もしかしたら、分かるかも。」
「知佳って子です。」
「やっぱり、知佳だったのね。」
「知佳って、看護師さんの娘だったんですか?」
「そうよ、驚いちゃった。もしかしたらとは思ってこの話をしたんだけど、やっぱり知佳だったんだなって思うと、嬉しくて。」
「私、唯一の友達が知佳なんです。クラスでもずっと一人だった私に声をかけてくれて、最初にかけられた言葉は、「最近、なんかあったの?」でした。その時、丁度、英検に落ちて、落ち込んでいた時だったので、この子すごいって思いました。それから、良く話しかけてくれるようになって、どんどん仲が良くなっていきました。嬉しかったんです。私に声をかけてくれたことが。それからは、相談に乗ってもらったり、時には恋バナしたり、すっごい楽しかったです。」
「よかったぁ~。知佳にこんなちゃんとした友達がいて。実はね、知佳も小学生のころ、クラスで独りぼっちだったの。小学校は、毎日、学校に行けてなかったけど、中学生になってから、「私、中学生になったから、変わる。」って言いだして、中学生になってから、見違えるように楽しそうに学校に毎日行くようになったの。今、思うと、それもあなたのおかげだったのね。ありがとう。あの子、昔、辛い思い出があったから、友達がなかなか作れなかったから。本当にありがとう。」
看護師さんの目からは涙が零れた。
知佳。明日、ちゃんと感謝を伝えよう。
「あ、忘れてた、私、宮本彩香と言います。あなたのお名前は?」
「空野瑠夏です。」
「瑠夏ちゃんね。覚えておくわ。これからも知佳をよろしくね。」
「あ、そろそろね、瑠夏ちゃん、朝日さんのところへ行ってらっしゃい。彼もきっと待ってるわ。」
「はい。行ってきます。」
私は、そう言って、病室のドアを開けた。


「晴。聞こえる?私だよ。」
返事は返ってこない。さっきから目をつぶっていて、まるで、寝ているようだった。
「目を覚まして。お願い。」
「晴。大好きだよ。愛してる、お願いだから、目を覚ましてよ。」
私の目から涙が零れた。つぎつぎに晴の服に濃い青色の染みができる。
視界がぼやけて晴の顔がよく見えない。
「る、か。」
っ!急に頭を撫でられた。
「な、なか、な、いで。」
酸素マスクから漏れる声は弱々しい、声だった。
「晴。私、晴の事が好きで好きで好きでたまらない。今でも晴が居ない世界が想像できない。そのくらい、大好きだよ。言葉に出来ないくらい、愛してる。なんで愛情を表す言葉がこんなにも少ないんだろうって思う。この気持ち、どうやって伝えたらいいの?」
「だ、だい、じょ、う、ぶ。」
「わ、かって、るよ。」
「本当?」
「う、ん。」
その弱々しい声からは満足したかのような感情があった。
「るか、お、れ、のつく、え、の、うえ、に、ある、か、み、も、って、いって。」
「こ、これ?」
そこには紙とは言いにくい、手紙が置いてあった。可愛い蝶が野原に飛んでいる封筒に、「瑠夏へ」と書かれていた。
「そ、う。そ、れ、ゆい、ご、ん。みて。」
―遺言書―私に読めというのか。
「読めばいい?」
晴は静かに頷いた。
私はそして、静かに読み始めた。

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