今を生きる君とこれからも

それから私は彼女の亡くなった病院の廊下でずっと一人で泣いていた。ここで謝ってから逝こう。でもなかなか足が進まなかった。出てくるのは止まることのない涙ばかり。
きっと私はまだそれでも受け入れられなかったんだ。信じられなかった。きっと全て噓なんだ。明日起きたらこれは夢で明日また学校に行ったら千穂ちゃんに会えて、昨日私があんなに泣いたのは何だったんだってまた二人で笑う。そんなことで頭がいっぱいだった。
「ねえ。お前どうしたの?」
急に話しかけられて驚いた。最近千穂ちゃん以外の子とは話してなかったから。人と話すのが久しぶりに感じた。だから最初はほんとしどろもどろだったと思う。
まるで話し方を忘れたかのように。
急に色々な事を聞かれて思わず見ず知らずの人に私の思いを告げてしまった。
「私が死ねばいいんだ。」
そしたら彼はとてつもなく怒った。
「何が、私が死ねばいい?お前はそれの意味わかってんのか!死ぬんだぞ!この俺の前で。まだ生きられるやつがなんでもうすぐ死ぬかもしれないやつにこんな事言われてんだよ!」
私は気が付いた。きっと千穂ちゃんは私が死んでも何も嬉しくない。これは私の想像だけど千穂ちゃんは私が千穂ちゃんの分まで生きて、それで恩返しした方が嬉しいに違いない。
この人は私に教えてくれた。死にたくなくても生きたくても生きれない人、死んでしまう人。私はそんな人たちの前でまだ生きれる時間があるのにわざと短くすような真似はできない。だから、私は生きる。長く生きる。きっと千穂ちゃんの分の寿命も私にはある。長く生きれるはず。たとえそれが七十だろうが、八十だろうが生きれるとこまで生きてみる。絶対そっちの方がいいに決まってる。
だから私はこの「将来」を生きていく。
「お兄ちゃん!ありがとう!」
あなたは私の命の恩人です。私が間違っていることにきずかせてくれて、新しい未来を導いてくれて、私はあの時あなたに出会えたからこそ、今を生きている。
本当にありがとう。
あのお兄ちゃんに名前、聞いとけばよかったな。今の私を見せてあげたい。あ、病気。
あのお兄ちゃんも病気なんだ。もう短いって言ってたな。じゃあもう会えないのか。また私は、大切な人にお礼を言えなかったのか。なんで、あの人は病気なんかになっちゃったの?千穂ちゃんだって、なんで。なんであんなにいい人ばかりが病気になって、こんな駄目な人は病気にならないの?どうして、神様、なんで?どうしてなの?教えて!

もう一度会わせて。あの二人に。



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