私を生かしてくれたのは元同級生のお医者さま
 会いたかった、という言葉の余韻をかみしめるように、高橋くんは彩を見つめたまま黙ってしまった。思い出のひとつひとつがゆっくりとよみがえってきて、中学時代よりずっと格好良くなった高橋くんに重なっていく。
 彩は思わず顔をそらした。

「ちょっと高橋くん、そんなに見られると恥ずかしいんだけど」
「ああ、ごめん。いや、そうだよね。僕の気持ち、何も伝えてなかったし」
「高橋くんの気持ちって」

 急にガヤガヤと店内のざわめきが大きくなった気がした。

(どんな気持ちだろう)

 はにかむ高橋くんを見ていると、彩はつい自惚(うぬぼ)れた事を考えてしまった。もしかしたら、彩の事を特別に想っているような、なにか、そんな気持ちなんじゃ……。
 ウーロン茶のグラスを両手で握りしめる。彩が様子をうかがうと、高橋くんはわずかに視線をそらして呼吸を整えた。
 落ち着いた彼が彩をまっすぐ見据えて言う。

「僕ね、小学生の頃から二階堂さんの事が好きなんだ」

 温かい言葉が風のようにブワッと彩の身体に吹き付けた。その優しい衝撃が彩の胸をくすぐる。
 高橋くんは彩の事が、好き。
 しかも小学生の頃から。
 高橋くんは目を細め、彩を見つめている。

「……え、と」

 これまで彩は、そんな事など一度も考えた事がなかった。誰かが彩を好きになる事なんて無い。家族にさえ(うと)まれるような、迷惑で、お荷物な人間だから。
 けれど高橋くんは照れたように笑って、彩に気持ちをしっかり伝えようと視線をそらさずにいる。
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