私を生かしてくれたのは元同級生のお医者さま
「悪い悪い!」

 友人は自分の持っていたウーロンハイを彩のすぐ近くに置いて、彩の耳元に顔を近づけた。

「二階堂さん、北斗のやつ『二階堂さんを支えたい』ってずっと言ってたんだ。前向きに考えてやってよ。それに医者だぜ? 将来安泰! 結婚相手にもってこい!」

 彩から顔を離した友人が、彩に向かってパチンとウインクをする。

「えっ……と」

 彩はなんと答えたら良いかわからなかった。困る彩をしりめに、友人は再度グラスを持つと「邪魔してごめんね!」と言い残し別のテーブルへと去っていった。

(なんだなんだ……なんなんだ?!)

 告白されて、後押しされて、みんなに良い雰囲気にされて……彩は自分の人生にこんな日が来るとは思ってもみなかった。モブどころかお荷物な人生だったはずなのに、これではまるで自分が恋愛小説の主人公にでもなった気分だ。最高潮。自分の身に起こった事とは思えない。

「二階堂さん、あいつ、何言ってたの?」

 高橋くんが怪訝そうに彩の顔をのぞき込んでくる。

「な、なんでもない!」

 テンパった彩はつい誤魔化してしまった。だって、「結婚相手」という単語が妙に恥ずかしかったからだ。

(落ち着け、私!)

 このままではいけないと、彩は手元のグラスの中身を一気に飲み干した。
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