私を生かしてくれたのは元同級生のお医者さま

病と彼

「二階堂さん!」

 席から飛び出した高橋くんが、力なく崩れ落ちる彩の身体を抱きとめる。
 彼の膝に彩の身体をあずけ、高橋くんは彩の脈と呼吸を確認した。

「彩! 大丈夫?!」

 友人たちが集まってくるなか、彩はふと気が付いて目を開けた。気を失っていたのは一瞬だけだったようだ。でも貧血のような気持ち悪さがあって、彩はまた目を閉じる。
 高橋くんは彩を抱えたまま、みんなに向けて言った。

「一時的なものだから心配はいらないと思う。でも、しばらく横になっていた方が良い。……駅の北口にビジネスホテルがあったよね。誰か、空いてる部屋がないか確認してくれないかな」
「わかった、私連絡してみる」

 みんなが固唾をのんで見守っている間、高橋くんは彩の手を力強く握り「大丈夫だよ」と何度も声をかけてくれた。「大丈夫、大丈夫」それは親が子どもをあやすような、信頼できる人間による絶対的な言葉だ。彼が言うなら大丈夫。彩は自然とそう思えた。

「ホテル空いてるって!」
「ありがとう、じゃあ押さえといてくれる? 僕はこのまま二階堂さんに付き添って休ませるから、先にお(いとま)するね。僕と二階堂さんの分の代金はこれで。足りなかったらあとで請求して」

 高橋くんは財布から一万円札を出して幹事に渡すと、彩を軽々とお姫様抱っこして立ち上がる。

「二階堂さん、少し揺れるかもしれないけど、ちょっとだけ我慢してね」

 彩に優しく声をかけ、高橋くんは居酒屋をあとにした。
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