私を生かしてくれたのは元同級生のお医者さま
 店を出て、駅の構内を抜け、ホテルに着くまで、彩はずっと高橋くんの腕の中だった。
 彼の足並みに合わせふわふわと揺れる感覚がまるで夢の中みたいだ。
 大勢の人の波をお姫様になったかのようにふわふわと駆け抜けていく。

 ホテルについた彩は、小さな部屋のベッドの上に優しくおろされた。
 高橋くんは王子様みたいに彩の靴を脱がせて、もう一度彩の脈を確認する。

「うん、落ち着いているかな。二階堂さん、苦しくない?」
「大丈夫。ありがとう」

 息苦しさはもうなかった。でもたぶん、起き上がるとまたクラッとくるだろう。

「二階堂さんはふだん不整脈が出た時ってどうしてる? 早めに受診するように言われてるなら付き添うけど」

 高橋くんはベッドサイドの椅子に腰かけ、彩の頭をなでながら尋ねた。まるで子ども扱いみたいだけど、今の彩には心地いい。

「ううん。休んで良くなるようなら定期受診で大丈夫って言われてる」
「そっか。じゃあチェックアウトは明日の十時だから、それまでゆっくり休もう」

 高橋くんの手が、いつくしむように彩のおでこの上をすべる。

「そばにいるから安心して」

 穏やかな彼の顔。優しい声。

「安心……」

 彩が呟くと、高橋くんはハッとして慌てて手をひっこめた。
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