私を生かしてくれたのは元同級生のお医者さま
「高橋くん……」

 胸が苦しい。
 お荷物で、いつ死ぬかわからないような彩を、高橋くんは「救いたい」のだそうだ。
 こんな彩を。ろくに働けず邪魔者扱いされ、日常生活もままならない、社会のお荷物でしかない彩を、彼は――。

「……生きてていいの? 私」

 彩の目から勝手に涙がこぼれてきた。自分の存在が認められた気がした。初めて誰かに「生きて欲しい」と願ってもらえた気がした。それがたまらなく嬉しかった。
 高橋くんが彩の頭を撫でる。

「当然だよ。なんでそんな事を聞くの?」
「だって――」

 彩の脳裏に母と妹の顔が浮かんだ。

「だって、迷惑でしょ、私。社会のお荷物で、なんの役にも立たなくて、それなのに障害年金もらったり優先席に座ったり健常者の邪魔ばかりして、まともに働くことも出来なくて、それに」

 彩の言葉をさえぎって、高橋くんの人差し指が彩の口をふさいだ。眉を寄せた彼が低い声で尋ねる。

「誰かに言われたの? そんな酷い事」

 家族から日常的に浴びせられた言葉は、高橋くんにとっては「酷い事」であるらしい。その感覚の違いに声をひそめ、彩は答えた。

「……お母さんとか、妹とか」
「えっ」

 高橋くんが目を丸くする。

「本当に?」
「うん。邪魔だとか迷惑だとか、子どもの頃からいつも」
「ありえない! なんでそんな事……家族だろ!」

 語気を強める高橋くんに、彩は慌ててフォローを入れた。

「家族だからこそだよ。私がすぐに体調を崩すから、家族には迷惑をかけてばかりなの。死ぬまで、ううん、死んでも迷惑かけちゃうし、そういう事を言われて当然なんだよ。私のせいで家族旅行だってしたこと無いんだもん、私の家」

 家族はいつもいつも彩の体調を優先させられている。旅行はおろか、外食すら途中で断念する事があった。迷惑かけっぱなしの彩は、家族にとって邪魔者以外の何者でもない。
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