私を生かしてくれたのは元同級生のお医者さま

手術

 それから数日後。
 自宅リビングで両親に「手術を受ける」と伝えた彩は、母に理不尽に怒鳴り散らされていた。

「なんで手術なんて勝手に決めたの!」

 母がバシンと机をたたく。

「どこにそんな金があるっていうのよ! だいたい、退院したってすぐには働けないでしょう! その間の面倒は誰がみるわけ? 本当にあんたは大人になっても迷惑ばっかり!」

 想像通りのリアクションだ。金と面倒。彩の心配はみじんもしてくれない。
 唇をかんだ彩の背中を、心の中の高橋くん、いや、北斗が「大丈夫だよ」と支えてくれる。

「心配しないで、お母さん。お金は福祉制度を使えばなんとかなるし、しばらく、友達……の家でお世話になるから」
「友達?」

 彩と北斗は彩が術後元気になるまで、結婚の事実を誰にも知らせない事にしていた。あくまでこの結婚は彩の手術を無事に終わらせる為のもの。正式に結婚を維持するか否かは、体の事が落ち着いてからゆっくり考えて欲しいと北斗に言われている。

「手術前から退院して働けるようになるまでの間、しばらく友達のところでお世話になることにしたの。お母さんたちに迷惑はかけないから」
「あら、そう」

 それを聞いて母は急に大人しくなった。母にとって問題は、自分に害があるかないかだけなのだ。顔をそらした彩に向かって、今度は父が言う。

「いいか、彩。手術の領収書はちゃんと持って帰ってきなさい」
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