私を生かしてくれたのは元同級生のお医者さま
「領収書?」
「そうだ。お前には保険をかけているんだ。多くはないが手術時にも給付金が出るから、必ず持ってきなさい」

 初耳だった。父は彩のために毎月保険料を払ってくれている。それは彩に対する情であり、思いやりだと感じた。父は彩の味方。
 そう思ったのに――。

「これまで無駄に払い続けた保険料を給付金で取り返さないとな!」
「ほんとそうよねえ」

 両親は彩の前で笑いあう。
 まるで彩に心があるとは思っていないみたいに。

(無駄にって何? お父さんは私にさっさと死んでほしかったの?)

 冗談でもそんな事を言って欲しくなかった。誰かに止めてほしかった。
 彩はたまらずリビングを飛び出す。
 ドアの向こうから「手術の成功率ってどのくらいなのかしらね」と話す両親の明るい声が響いてきた。それがどういう意味の心配なのか、彩は考えたくもなかった。
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