私を生かしてくれたのは元同級生のお医者さま
「うん。病院としては満場一致で手術を勧める状態だよ。夫という立場で考えても、受けた方が良いと思う」

 それなら彩に迷いはなかった。
 彩はペンをとり手術の同意書にサインをする。入院の保証人欄には、北斗が夫としてサインをした。

「よろしくお願いします」

 深々と頭を下げる。危険は承知。それでも彩は、新しい「家族」の為に生きたいと願った。


 入院前夜。
 彩と北斗は二人で素敵なレストランで食事をとっていた。

「これが最後の晩餐……」
「彩ちゃん、縁起でもない事言わないで」

 フルコースを頂きながら漏らした言葉に北斗が眉をひそめる。

「ごめん。だって手術したあとも退院まで一か月くらいかかるって言うから」
「まあそうだね。ねえ彩ちゃん、元気になったら何したい? 行きたい所はある?」

 北斗は料理の合間に彩に手を伸ばしては、彩の指に自分の指を絡めている。それが心地よくて、彩も彼の指を撫で返した。

「そうだなあ……うぅん、子どもっぽいって笑わないで欲しいんだけど、遊園地……行きたい」
「ああ、そっか。それは良いね」

 北斗が納得する。
 そうなのだ。心臓に病気のある彩は、遊園地で乗れるものが何もない。だから今まで一度も行った事がなかったのだ。

「じゃあ彩ちゃん、退院後すぐには無理かもしれないけど、しばらくたって心臓に問題がなかったら一緒に行こう。約束」

 小指を絡ませる。
 北斗はこの約束がどういう意味かわかっているのだろうか。
 術後しばらくたった後も一緒にいたい。彩はそう思っているのだ。
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