私を生かしてくれたのは元同級生のお医者さま
 手術当日の朝。
 手術室へ向かう前に、彩と北斗は言葉を交わした。

「頑張ってね、彩ちゃん」
「うん」
「でも、本当にご両親に言わなくて良かったの? 今日が手術だってこと」

 北斗が心配そうに言う。これまでの彩の「家族」を知らない北斗には、何も言わず手術を受ける彩が薄情に見えているのかもしれない。

「いいの。どうせ私の事は心配してくれないし。それに、私が『高橋』姓になってる説明をするのも大変だし」
「まあ、そっか」

 それから二人はハグをした。
 いってらっしゃい、いってきますのハグ。
 頑張れ、頑張るねのハグ。
 気持ちを伝えあうためのハグ。

「一緒に乗り越えよう、彩ちゃん」
「うん。行ってくるね、北斗くん」

 彩はこれほどまで心強い支えは他にないと思った。一人じゃない。だから頑張れる。北斗が居るから頑張れる。
 手術室に入った彩は、深く長い眠りへと落ちていった。
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