私を生かしてくれたのは元同級生のお医者さま

家族

 彩が手術室に入って十時間以上が経過した。
 北斗は定期的に手術状況を聞きながら手術が無事終わるのを待っている。
 ただ、状況はかんばしくない。弱っていた心臓に鞭を打っているのだから仕方ないとはいえ、北斗は気が気ではなかった。さっきからずっと、スマホの電話帳をつけては消してを繰り返している。

「……っ」

 意を決して、北斗は通話ボタンを押した。

『はい、二階堂です』
「彩さんのご自宅ですか。突然すみません、彩さんの同級生の高橋と申します。実は――」

 それから一時間。
 手術待合室に彩の両親がやってきた。

「わざわざ連絡してもらって悪かったわね。貴方が高橋くん? 彩の様子は?」

 急な連絡に慌てる様子もなく、彩の母がゆったりと問いかける。椅子から立ち上がった北斗は頭を下げた。

「連絡が遅くなり申し訳ございません。彩さんはまだ手術中です。人工心肺からの離脱に手間取っているみたいで」
「つまりどういう事だ? 命の危険ということか?」

 父親の質問に北斗が医師として答える。

「いえ、心臓の回復を待って少しずつ進んでいくと思います。時間はかかるかもしれませんが、大丈夫です」
「時間がかかる?」

 母の目の色が変わる。

「まさか障害が残ったりするんじゃないでしょうね! だから私たちを呼びつけたっていうの?」
「いえ、そうではありません。ただ大きな手術ですから、ご両親にも待機して頂きたくて」
「私、嫌よ。介護なんて」

 母の言い放った言葉に北斗は耳を疑った。なんの心配をしているのだ。だが、父親も同調して続ける。
< 28 / 37 >

この作品をシェア

pagetop