私を生かしてくれたのは元同級生のお医者さま
 手術から二か月半が経過した。
 長かった。いろんな事があった。
 そして彩は今日、退院する。

「大丈夫、彩ちゃん。お姫様だっこする?」
「さすがに恥ずかしいよ! 北斗くんは荷物持って!」

 まだ長い距離を歩く事が出来ない彩は、病室からエントランスまで車いすでやってきた。入り口前に止まっているタクシーに乗る為に、北斗はお姫様だっこをしようとしたのだ。

「もう……北斗くんってば過保護だよ」
「そんな事ないでしょ。僕はこの二か月半、彩ちゃんが命がけで頑張ってきた姿を見てるんだ。そのくらいしたいんだよ」

 北斗は渋々といった感じで彩に肩を貸し、タクシーに乗せた。入院期間中、たくさん浴びた彼の優しさに、彩の頬がゆるむ。そんな時、聞き覚えのある女性の声がして、彩は振り向いた。

「お姉ちゃん! 退院するんだって?」

 今まで一度も見舞いに来なかった彩の妹と両親が病院の前に立っていた。

「なんで……」

 彩は退院の事を伝えていない。もちろん北斗もだ。けれど妹の遥花は待ってましたと言わんばかりにニヤニヤ笑いながら近づいてくる。

「友達の看護師に聞いたの。お姉ちゃん水くさいじゃん、教えてくれないなんて。さ、一緒に帰ろ」
「いたっ」

 遥花は彩の腕を強引に引っ張った。
< 31 / 37 >

この作品をシェア

pagetop