私を生かしてくれたのは元同級生のお医者さま
「ちょっと何をするんですか。彩さんはまだ体調が不安定なんですよ。やめてください」

 タクシーの座席に座ったままの彩と、引きずり降ろそうとする遥花。その間に立つように身体をねじ込ませた北斗が、遥花を睨み付ける。

「術後落ち着くまでこちらで静養すると伝えていたはずですが」
「あー、大丈夫大丈夫。うちで面倒見るんで!」

 遥花は強引に彩へと手を伸ばそうとする。
 彩には遥花が何を考えているのかわからなかった。善意で言っているようには見えない。遥花の奥に立つ両親も妙にニコニコしているのが余計に怖かった。

「ほら、うちに帰ろう、お姉ちゃん!」
「い、嫌だ」
「なんで! 知らない人の家より住み慣れた我が家が良いでしょ! ね?」

 彩は胸元を押さえた。ストレスのせいだろうか、呼吸が苦しかった。気付いた北斗がひざまずいて彩の手を握る。

「彩ちゃん、大丈夫?」
「……ちょっと苦しい」
「横になって待ってて。すぐ終わらせる」

 北斗はタクシー運転手に「少し待っていてください」と告げると、タクシーのドアを閉めた。
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