私を生かしてくれたのは元同級生のお医者さま
 悩む北斗を見て、両親は勝利を予感したのかヒクヒクと口角をひきつらせた。
 しばらくして北斗は「わかりました」と顔を上げる。

「では念書を書きましょう。『今後、彩さんは毎月の障害年金を全額両親に渡す事とする。その条件を飲むかわり、ご両親および妹さんは今後一切彩さんと関わらない事とする。保険料についても不問とする』これで良いですか?」
「良いわよ! あ、待って。その念書、公正証書にしておきましょう。きちんと払わなかったら裁判起こして財産を差し押さえてやるから! ねえ、あなた」
「ああ、それはいい! きっちり払ってもらわなきゃ困るからな」

 両親は勝ち誇ったように、わははと下品に笑う。北斗は大きくため息をついた。

「わかりました。じゃあそうしましょう。……失礼します」

 北斗がタクシーに乗り込む。ニタニタ笑う両親たちを残して、タクシーはゆっくり動き始めた。
 車内。
 不安なまま待っていた彩は、乗り込んできた北斗の手を握った。

「北斗くん……」

 険しい顔をしていた北斗が一瞬で明るい笑顔になる。

「僕たちの勝ちだよ、彩ちゃん。それも大勝利!」
「どういう事?」
「障害年金にこだわり過ぎって事さ。ま、一か月もすれば彩ちゃんも僕の言いたい事がわかると思うよ。そんな事より今日は退院祝いだ! 美味しいものでもウーバーしよう。彩ちゃんは何を食べたい?」

 北斗の指が彩の頬を撫でる。
 彼の気づかいや優しさが、彩はとても嬉しかった。
 これをそっくりそのままお返ししたいと思う。
 それが「家族」なのだから。
 彩はこのまま北斗と家族でいたいと強く強く思った。
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