私を生かしてくれたのは元同級生のお医者さま
 聞き慣れた声が刃物になって飛んできた。

「知らない間に突然死されたら困るじゃない。ウジの湧いた腐った死体を確認させられるなんて嫌よ、お母さん」
「うえ、私も絶対無理!」

 二人の言葉が彩の心にぐさりと突き刺さる。

「それに後始末のお金を払うのはお母さんたちなんだから、とてもじゃないけど一人暮らしなんてさせられないわよ」
「そっかぁ。ほんとお荷物じゃん。だる……」

 遥花は彩を睨み付けてドカッとダイニングチェアに座った。

(だるいって何)

 彩は悔しさと悲しさで唇をぎゅっと噛んだ。
 言い返したいけど、言い返せない。突然死のリスクも、自分の存在が他人にとって迷惑なのも、全部事実だ。
 何も言えない。出ていく事さえ出来ない。生きていても死んでも迷惑――。
 うつむく彩に母が言う。

「彩、なんでそんな顔するの。あなた恵まれてるのよ? あなた、毎月この家に自分がいくら入れてるかわかってるわよね」
「三万円だけど」
「そう。たった三万円。普通、三万ぽっちで一人暮らしなんて出来ないでしょう? 私たちが好意で安くしてあげてるんだから感謝しなさい」
「……わかってる。ありがとう」

 ダイニングテーブルについた彩は顔をそむけ、妹と母のくだらないお喋りが耳に入らないようにシリアルをザクザク混ぜた。
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