私を生かしてくれたのは元同級生のお医者さま
「かんぱーい!」

 駅前のビルの三階にある海鮮居酒屋に元気な声が響く。
 総勢二十数名の同窓会は、こじんまりとした居酒屋を貸し切っておこなわれた。

 彩は仲良しグループの女子三人と四人掛け席についている。
 隣のテーブルには昔チャラチャラしていた男子数人がスーツ姿で座っていた。すっかり落ち着きはらった彼らに時の流れを感じる。自分はこんなに成長しただろうか。彩はちょっと自信がなかった。一方、ギャルだったクラスメイトは赤ちゃん連れで顔を出し、赤ちゃんをひと通り披露して早々に帰っていった。和気あいあいとした雰囲気は、卒業後十年以上たっても変わっていない。

「彩、体調大丈夫?」

 友人たちが彩を気づかいつつ料理を取り分けてくれた。

「うん、たっぷり寝てきたし、今日は疲れる仕事をしないように気をつけてたから大丈夫!」
「そっか。でも無理しないで。辛かったら早めに言うんだよ」
「わかった、ありがとう」

 友人の怜奈は彩のウーロン茶のグラスに自分のレモンサワーをカチンと合わせ、ニコッとほほ笑む。怜奈の優しさも変わっていない。

「あはは! 怜奈、お母さんみたい」
「昔から彩の保護者だよね、怜奈は」
「まあね。まかせて」

 あはは、と笑いあう友人たちに囲まれて、彩はホッと息をついた。本当の母よりずっと優しいみんなの事が、彩は大好きだった。

(来て良かった)

 心からそう思えた。
 笑みをこぼした彩は、目の前の怜奈がニヤニヤと自分の顔を眺めている事に気付く。

「……何?」
「えー? いやあ、なんでもない。あー、えっと、私ちょっと向こうのテーブル行ってこよっと。じゃあね!」
「へ?」

 キョトンとする彩を無視して、怜奈はレモンサワーを持って立ち去ってしまった。移動するにしても早すぎない? と思っていると、頭上から男性の声が降ってくる。

「二階堂さん。ここ、良い?」

 その声に彩はドキッとして顔を上げた。
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