私を生かしてくれたのは元同級生のお医者さま
 見上げると、スーツ姿の男性が彩に向かって声をかけている。
 真っ黒のストレートな髪を後ろに流すようにセットした、さわやかな印象の男性。優し気な目元に穏やかな笑み。
 見慣れない顔だ。
 でも、なんとなく「彼」の面影を感じる。

「え、え……、高橋、くん?」

 彩は思わず息を飲んだ。
 優しそうな顔は中学時代と変わっていない。けれどその表情からは昔感じた自信の無さが消えていて、凛々しくなった顔つきに男らしい力強さがにじみ出ている。

「久しぶり、二階堂さん」

 大人になった高橋くんはそう言って白い歯をのぞかせた。

「ひ、久しぶり」
「ああ良かった。『誰?』って言われたらどうしようかと思ったんだ。覚えていてくれて嬉しいよ」

 高橋くんが彩を見つめながら、目の前の席に腰かける。目を細めた彼の笑いジワが印象的だった。

(高橋くんって、こんなに堂々と笑う子だったっけ)

 彼の成長ぶりにどぎまぎしながら、彩も微笑み返した。

「こちらこそ、会えて嬉しい。ほんと久しぶりだよね。卒業以来だもん」

 隣に座っていた友人たちは顔を見合わせる。息を合わせて立ち上がり、「私たちも向こうのテーブルに行くね」と席を離れてしまった。

「あ、ちょっと」

 あからさまに彩と高橋くんを二人きりにさせようとしているけど、高橋くんは気にしていない様子だ。
 彩を見つめて彼は言った。

「二階堂さん、会いたかった」
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