【完結】婚約破棄イベントが壊れた!
 エリオット殿下が、きゅっとわたくしの手をほんの少し、強く握った。

 彼を見上げると、じっとこちらを見つめる瞳と視線が交わる。

「こっちにおいで。最後に見せたい場所があるんだ」

 見せたい場所? と目を(またた)かせると、彼はわたくしの手を引いて歩き出す。賑わっていた王都から外れていく。

 高台へと足を進めるエリオット殿下。

 周りにも人がいるから、珍しい場所ではないみたい。

「……っ!」

 夕焼けに染まる王都を見渡して、思わず言葉を呑む。

 温かな赤に包み込まれる王都は、きらめいて見えた。

 少し強い風が吹いて、帽子を飛ばそうとする。

 慌てて帽子を掴んだ。

「綺麗だろう? 王都の全体を見渡すのには、ここが一番なんだ」
「はい、とても綺麗です」

 帽子を押さえたまま思ったことを口にすると、エリオット殿下はうなずく。

 彼は、本当にこの場所が好きなんだろうって思った。

 ゲームの殿下と、現実の殿下はまるで違う人だ。……いや、それはわたくしが見ようとしていなかったから、そう思うのかもしれない。

「王族や貴族の結婚は義務だろう? 国王や王妃は一種の職業だ。だが、わたしは義務ではなく、職業でもなく、きみを望んでいる」
「エリオット殿下……」
「学園を卒業するまで、きみはどこか思い詰めた顔をしていた。だが、最近はそんなこともなくなり、素のきみを見られていると思う」
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