【完結】婚約破棄イベントが壊れた!
 プロポーズ、としか思えない言葉をかけられて、わたくしの頭の中が真っ白になり――

 ぽろり、と涙がこぼれ落ちた。

 そのことに驚いたエリオット殿下が、わたくしの頬から手を離そうとする。

 思わず帽子から手を離し、その手に自分の手を重ねた。

 強い風が吹いて、帽子が飛ばされていく。

「――好きです。エリオット殿下が、好きです……!」

 伝えなくてはいけないと思った。

 わたくしばかり、エリオット殿下から気持ちをいただいているから……

 殿下は、わたくしの言葉に大きく目を見開いて、それからくしゃりと泣きそうな表情を浮かべて、そっと額を重ねた。

「……ありがとう」

 泣きそうな声で伝えられて、わたくしは何度も自分の気持ちを彼に伝える。

 どのくらい、そうしていたのかわからない。ただ、一瞬のようにも永遠のように長い時間にも思えた。

「……帰ろうか」
「……はい」

 ただ、帰る前にエリオット殿下がわたくしの唇の自分の唇を重ねる。

 びっくりして目を丸くすると、悪戯が成功したかのように微笑まれた。

 ……その表情があまりにも格好良くて、ずるいなぁなんて思ってしまった。



 後日、あの日飛ばされた帽子はわたくしのもとまで戻ってきた。殿下からいただいた帽子だから、本当はすごく気がかりだったのだけど……

 探す暇がなかった。それを、殿下の護衛が見つけて、わたくしまで持ってきてくれたのだ。

 お忍び、とはいえ……やっぱり護衛はついてきていたみたい。

 護衛のひとりに「とても感動しました!」と明るく伝えられ、思わず「わ、忘れてください……!」と必死になった。

 エリノーラからも詳しく! と詰め寄られた。

 お忍びといっても、わたくしたちのことに気付いた人たちもいるようで、とても仲が良い婚約者として国民たちに知られるようになった。

 その評判にエリオット殿下は満足しているようで、上機嫌そうだった。

 ……まさか、それが目的でデートに誘ったとか……ない、よね?
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