借金のカタに売られたら、溺愛メイドになりました〜双子に翻弄されています〜

壊れた日常、の裏側



 俺は颯斗の部屋をノックした。チョコレート色のドアは軽い音を二回ほど響かせた。


 返事はない。音楽を爆音で聴いているんだろうか。耳が悪くなるからやめろと再三言っているのに。それとも本当にいない?


 いないならいないでメモでも残しておこう、とドアノブを回した。


 
「颯斗、お疲れ」



 凛斗はひょうひょうとした調子で俺に声をかけた。こっちを見もせず文庫本を読んでいる。ドラマにもなったミステリー小説の最新刊だ。


 お見合い目的でやってきた家族をようやく帰して、鈴村和泉さんを父さんの書斎まで案内した俺にこの仕打ち。我が弟ながら冷血漢である。



「凛斗、話がある」



 それでも、確かめておかないといけないことがある。俺が一歩近づくと、最初からわかっていたというように顔を向けた。
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