借金のカタに売られたら、溺愛メイドになりました〜双子に翻弄されています〜
硬い音が耳を通って、脳へとたどり着く前に心臓をつかむ。
その冷たい心地に、甘くて優しい空気が遠ざかる。
何を、期待していたんだろう。
私はどうしたって、ただの居候にすぎないのに。
「俺は──」
「あれ、颯斗?」
場違いな明るい声に、颯斗くんの肩から後ろをのぞく。
かわいいブレザーの制服を、だらしなくない程度に着崩した女の子がこちらを見ていた。
振り向いた颯斗くんに、「やっぱ颯斗だ!」と嬉しそうに近寄ってきた。細くて形のいい足が、スカートから伸びている。
ショートの黒髪には天使の輪ができているし、小さめの顔にはぱっちりした瞳やツヤツヤの唇が乗っかっていた。流行りのスクールメイクってやつかもしれない。
「それじゃ、もう行くね」
私は近くにあったハンドクリームを手に取って、矢継ぎ早にそう言うと、颯斗くんの返事も待たずにレジまで早足で歩いた。