借金のカタに売られたら、溺愛メイドになりました〜双子に翻弄されています〜
「だからさ、あいつを好きになるだけムダ」
「好きじゃありません」
「俺は次男だからさ、そこまでしがらみとかないの」
彼は私の肩をつかんでいた右手で、首筋を、頬を撫でて唇に指を這わせた。私の、リップクリームで少しベタついたそれをフニフニといじくる。
「俺にしときなよ」
「……」
「顔もそれなりに似てるしさ、お前も楽しめば?」
私はその言葉に、真っ白になっていた指から力を抜いた。痕が残ってしまったことを申し訳なく思いつつ、本を枕のほうへと置いた。
そのまま手を伸ばして、凛斗くんの背中をかき抱いた。温かいけどゴツゴツして、骨っぽい。男の人って皆こんな感じなのかな。
間髪入れずに彼の耳元で囁く。シャンプーか整髪剤かわからないけどいい匂いがした。
「いいよ。シよう」
数秒間だけ、時が止まったように感じた。
そのくせ、相手の心音だけはやたらと大きく響いていた。