借金のカタに売られたら、溺愛メイドになりました〜双子に翻弄されています〜

 親に捨てられたのも、手がボロボロになったのも、近所であることないこと噂されてるのも。


 元凶は房宗家なのに。


 あの思い詰めた顔の下で、どんな考えが渦巻いているのかはわからなかった。


 それでも、あいつは颯斗が好きで……だから、この家を出たがっているのだけは、本当だとわかった。


 それから最悪のタイミングで颯斗が帰ってきて、あいつからしたら、今すぐにでもここから出たかっただろうと思う。


 でもそんなことはさすがにできなくて、この家を出るのは三日後になってしまった。


 荷物をまとめる後ろ姿に声をかけるでもなく、わざわざ門まで見送るでもなく。


 俺は、自分の部屋の窓から外をのぞいた。長い黒髪が、背中で遊んでいるのが見えた。


 安田が勝手に話していたが、ここからそう遠くないところにあるアパートで暮らすらしい。



「そこで泳がせて、あいつの親を誘き出す作戦か」



 あいつは、エサじゃないのに。


 苛立ちのままに、くしゃりと前髪をかいた。
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