借金のカタに売られたら、溺愛メイドになりました〜双子に翻弄されています〜
房宗家での記憶は、簡単に引き出されてしまう。
豪華な料理が来ても、これを作れたら皆は喜んでくれるかな、とか、これは苦味が強いから出さないほうがいいかな、とか。
両親は私が上の空になっているのに気づいて、「疲れてる?」「大丈夫?」と心配してくれる。それがどうにも申し訳なくて、私は無理やり笑顔を作って否定した。
「ううん、違くて……なんだか夢みたいだと思って……」
「和泉、もう離れ離れになったりはしないからね」
「そうよ。これからはずっと一緒」
三人で笑顔を交わし、おいしい料理を口に運ぶ。
これが、幸せ以外の何なんだろう。
そうだ。私はこの幸せをつかんだまま、忘れるんだ。
房宗家での生活を。彼らを。
チーズハットグも、ハンドクリームも、リップクリームも。
忘れて、生きていかなきゃいけない。
お吸い物の具を何度もかんでから、飲み下した。