あなたを守りたかったから 〜彼女を愛した二人の男〜

　決戦は今日だ。
　春日川奏奈(かすががわそうな)はドキドキと自分の姿を確かめた。

　化粧を念入りにしてきた。髪も昨日、美容室で切ったばかり。新調したワンピースはちょっと背伸びして買ったブランド物。バッグも靴もそうだ。２７歳にして初のブランド物だ。すべてはこの日のために、と言っても過言ではなかった。

　深呼吸してからその居酒屋のドアをあける。
　がやがやと賑やかな声がして、らっしゃいませー！　と活気のある店員の声が響く。
　店員に同窓会で来たと告げると、座敷に案内された。

　そこにはすでにたくさんの着飾った男女がいて、笑顔で杯を交わしていた。
「ああ！　やっと来た！」
「遅いよ」
　かつてのクラスメイトの女性が声を上げる。

「ごめんなさい、仕事が押しちゃって」
　奏奈は愛想笑いを返した。
　高校時代はまったく自分と親しくなかったのに、妙に馴れ馴れしいのが気に障った。

「知ってる、ネット配信だよね！　私、チャンネル登録したよ！」
「すっごいきれいになったね！」
「見違えたよ！」
「ありがとう」
　奏奈はにっこり笑ってお礼を言った。お世辞でもほめられて悪い気はしない。

「女は変わるっていうけど、ほんと美人になったな」
　正面に座っている男性が言った。奏奈は彼が誰だったか思い出せず、にっこりと笑って応じた。
「やだ、発言がおっさんくさい」
　かつてのクラスメイトが混ぜっ返す。

「あ、それ、限定販売のバッグ！　販売直後に売り切れてぜんぜん手に入らないって話題になってた」
「あ、そうなんだ」
　知らないフリをしてとぼけた。

「服もハイブランドだよね。すっごーい」
「ネット配信ですごい人気だよね」
「企業案件っていうの？　企業とコラボして稼ぎまくってるよね」
「すごいなあ」

「そんなことないよ」
　口々にほめられて、奏奈は曖昧に笑って返した。よく知ってるな、と怖いくらいだ。